日本たべもの総覧
日本たべもの総覧(6)
握り鮨【にぎりずし】
「散らし鮨」があらわれても「すし」の本流はやはり押して作るものと思われていた。ところが文化文政期に入って、江戸で「握り鮨」が考案され、手早く押して固めて作る「すし」が生まれた。このため「箱鮨」はたちまち江戸から駆逐され、主として京阪方面で作られ、江戸ではもっぱら「握り鮨」が幅をきかせた。現在では「箱鮨」を「大阪ずし」、「握り鮨」を「江戸前」と称している。
ぬくずし【ぬくずし】
「むしずし」ともいい、冬の食べ物である。酢は冬期には需要が減るため案出されたものであろうが、酢をあたためると異臭が生ずる。したがって上方のうすく軽い味にのみ用いられた。
巻ずし【まきずし】
酢飯の海苔で巻き、適当に切って食べるもので、江戸では「かんぴょう」だけを芯に入れて細巻きにし、上方ではさらに「しいたけ」や高野豆腐などを入れて太巻きにする。その他「きゅうり」を入れたカッパ巻(想像上の動物カッパは胡瓜が大好物であったから)、まぐろを入れた鉄火巻(ばくち場を鉄火場と称しそこで手軽に食べられたことから)などもあるが、巻ずしは元来精進料理の一種であったから、今でも「いなりずし」を組み合わせてあることが多い。
餅【もち】
一晩水に浸したもち米を蒸して臼に入れ、杵でつきあげたもの。祭典の供物、大福などの生菓子の材料、干して焼いたせんべい・あられなど用途は実に広い。一般の家庭でも正月には必ず用いる。その際西日本では小さく丸めた丸餅、東日本ではのし餅を切った切り餅を使う。供物用の大きな丸餅は「かがみ餅」と呼び、正月11日には「かがみ開き」と称してかがみ餅を割って祝う。形状から見た呼称には他になまこ状の「なまこ餅」、菱形の「ひし餅」などがある。またもち米にいろいろなものを混ぜて搗き込むことも多く、粟を混ぜたあわ餅、よもぎを入れた草餅などがよく知られている。
雑煮【ぞうに】
餅を主とするあつもの(羹)で、どこの家庭でも正月に食べる。材料や調理法は地方によっても家庭によっても異なる。ただ関東ではすまし仕立てにするが、関西や九州では味噌仕立てにすることが多く、しかも白味噌を用いる。また関西では丸餅をそのままか茹でて使うが、関東では四角い切り餅を焼いて汁に入れる。なお雑煮箸といって特に太い箸を用いるのは、餅がねばるので力が入り、万一折れることを恐れるからである。
うどん【うどん】
奈良時代に唐(中国)から渡来した菓子の一つに混沌(こんとん)がある。「あん」を小麦粉で包んだ団子にし煮て食べるが、食物なので字を改め餛飩(こんどん)と呼び名をかえた。さらに熱いのを食べることから温飩(うんどん)に転じ、これが詰まって「うどん」になったという。うどんは概して太いが、うすく扁平に切ったものを「ひもかわ」といい、名古屋では特に「きしめん」と呼ぶ。天ぷらや肉、たまごなどの入ったものを「たねもの」というが、京阪では何も入らぬ「素うどん」を喜ぶ風がある。
一般にはそばが東日本で好まれるのに対し、うどんは西日本で好まれる。
参考資料「日本たべもの百科」新人物往来社刊