日本たべもの総覧
日本たべもの総覧(29)
八つ橋【やつはし】
せんべいは各地で作られ、土地土地の名物として知られているものが少なくない。京都の「八つ橋」小麦粉と砂糖のほか、白玉粉とニッキ(肉桂粉)を材料にして作ったせんべいの一種である。金沢には、もち米で作った丸いせんべいに砂糖で「寿」という字をあらわした「寿せんべい」がある。神戸の名物として知られる「瓦せんべい」は小麦粉・砂糖・卵を用いて作る瓦の形を模したせんべいで、表面にいろいろな図柄が措かれている。同じ材料を用いたものに福岡の「にわかせんべい」がある。
変わったものでは、青森県八戸の名物「南部せんべい」がある。砂糖を使わず、塩と小麦粉で作り、表面に黒胡麻がつけてある。素朴で一種独特の旨味があるが、おそらく今日ではせんべいの原形を最もよく伝えている菓子ではあるまいか。
このほか、各地の温泉みやげには鉱泉を用いたせんべいがあり、それぞれいろいろな名を冠している。
掻き餅【かきもち】
塩せんべいに似たものに「かき餅」がある。元来、正月の供え餅に刃物を入れるのを忌み、手で掻き割ったことから生じた名称であるが、後に転じてかき餅として別に作るようになった。冬期、厳寒の日の水を用いて作った餅を、ナマコ型または方形にのばして薄く切り、陰干しにして保存する。来客をもてなすのに喜ばれ、焼いて砂糖醤油などをつけて食べる。また、餅の中に砂糖・胡麻・青海苔・大豆などを入れると、見た目にも味にも変化があって楽しい。この餅がいつしか自家用だけでなく商品として売られるようになり、海苔を巻いた「品川巻」なども考案されて、今日では最もポピュラーな大衆菓子の一つとなっている。
霰【あられ】
「かきもち」に似たもので、やはり大衆菓子として喜ばれているものに「あられ」がある。もとは「かきもち」の一種として作られたもので、平安時代から「あられもち」とか「玉あられ」と呼ばれていたという。しかし、商品として大量に製造されるようになったのは、江戸時代からである。作り方は、餅をハサミで細かく切って乾燥したもので、煎ると膨らむさまが丁度、空から降る「あられ」に似ているのでこの名がついたと古書に記されている。なお、三月の雛節供に供える風は、今なお残っているが、このとき用いる「雛あられ」は餅を使わないのが普通である。
引菓子【ひきがし】
もともとは神社・仏閣で、神や仏に供えた菓子を神仏の加護によって厄払いになると信じて、分けてもらった物である。
したがって、元来はごく簡素な菓子に過ぎなかった。ところが、後に個人の慶弔のさいに「みやげもの」として持って帰るようになり、さらに発展して商店の創立記念日など、何か理由のある宴会のさいなどにやたら用いるようになった。こうなると、おのずと見た目に美しく、立派なものが喜ばれるようになり、いろどりの美しい生菓子や、打物(打菓子)の干菓子などを使って、華美で装飾に富むように工夫されるに至った。いわゆる「葬式まんじゅう」のように外見は派手はでしくないものは、形を大きくしてどっしりした趣を出すようにこしらえてある。なお、日本料理でも「引肴」「引物」と呼んで「かまぼこ」などを詰めた料理を「土産品」に作っていたが傷みやすいためと、重さの点から次第にすたれはじめている
参考資料「日本たべもの百科」新人物往来社刊