日本たべもの総覧
日本たべもの総覧(31)
強精食【きょうせいしょく】
強精食はまたスタミナ料理ともいうが、昔から効能ありと伝えられるものが少なくない。
すっぽん(鼈)
日本ではスッポンは鍋料理が代表的である。フランス料理にもスッポン入りスープがる。なお、酒にスッポンの生き血をまぜたものも案外飲みやすい。鯉の生き血とともに民間では昔から強精・強壮剤として利用されている。
うなぎ(鰻)
万葉集の大伴家持の歌に「石麻呂に吾れ物申す夏痩せに吉しというものぞ武奈伎(むなぎ)とりめせ」と詠われ、江戸時代に平賀源内が「本日土用丑の日」と看板に書いたのがきっかけで食べられるようになったという。土用の丑の日にウナギの蒲焼を食べる風習は今も盛んである。夏バテで体力が減退する盛夏にウナギを食べて精力をつけることは昔から変わらない。
八つ目うなぎ(八つ目鰻)
ウナギとは別種の魚で、目の後ろに七つのエラ穴があるので目が八つあるように見える。ピタミンAが多く特に目に効くといわれる。これは出汁と味噌で味をつけ、焼き豆腐と葱などを添える。味がよい上に軟骨も食べられる。秋田県が名産地だが少なくなった。
どじょう(泥鰌)
関東では早くから食べられたが関西では江戸後期以降に食べられた。栄養価が高い割りに安価なので庶民が愛好した。どじょう汁、どじょう鍋、柳川鍋、蒲焼などで食べる。
山の芋
調理法ではとろろ汁が知られている。麦飯に掛けて食べる麦とろ、そばに掛けて食べる山かけ、そばとろ、卵黄を落として青のりを散らしたとろろ月見などがある。昔から強精食として知られており、江戸時代の俳人許六も「世に腎薬ともてはやされる」と記している。
くこ(枸杞)
クコは直接精力をつけるというより、胃腸を調えて栄養を吸収する身体を作るようである。山野に自生するから春の若芽を摘んで浸し物や天ぷらに、秋の実をとってクコ茶やクコ酒を作り飲用する。
にんにく(大蒜)
にんにく、ひる、らっきょう、ねぎ、にらは「五辛」(ごしん)と呼ばれて、古くは神事にも用いられるなど、邪気を払い身体を強健にすることが認められていた。しかし、仏教伝来後、誤った教えのため、かえって身がけがれるなどと思われた。
にんにくは五辛の第一で、硫黄と燐を含む強精剤である。
昔から土佐地方では鰹のたたきに、刻んだにんにくを添えるが、今では鰹の代表的な料理になっている。にんにくには次のような病気に効き目があるといわれている。血圧、利尿、風邪、健胃、冷え性、心臓病、強肝、百日咳、蓄膿症など。また殺菌、抗菌、駆虫、鎮静作用があり、虫に刺されたときに輪切りにして患部をこすったり、異物を飲み込んだときに措りおろして酒で飲むと簡単にはき出すことができるという。また、にんにくは生で食べたり、焼いて食べたりするほか、すり下ろしたり刻んで薬味として用いる。
蜂蜜や焼酎、醤油などに漬け込むことで臭気が薄らぎ消えることもある。ただ、異臭が強烈なため好まない人もいるが、最近ではにんにくが不可欠の鮫子やキムチなどの食べ物が好んで食されており、臭気を弱めたにんにく粉もあって重宝されている。一般家庭でも肉料理に限らずガーリックとして使用すると料理の味が一段と引き立つので活用されている。伝統的なサプリメントではにんにく卵黄が愛用されているが、にんにくの有効成分は広く総合ビタミン剤やビタミンB1剤として利用されている。
参考資料「日本たべもの百科」新人物往来社刊