日本たべもの総覧

日本たべもの総覧(14)

【しお】

塩は、人および動物にとって必要不可欠なもので、しかも他に代用するものがないから、古代から重んじられてきた。

ローマでは兵士や役人に給料として塩を与えたこともある。給料を意味する英語のサラリーは塩の支給をあらわすラテン語のサラリウムから起こった言葉である。さて塩は天然には岩塩のように固形のものと、海水などの水溶液のものとがある。日本では岩塩がないうえ四面海で囲まれているため、海水から塩をとった。特に発達したのは比較的降雨量の少ない瀬戸内海沿岸地方で、塩田に海水を引き入れて日光と風で濃い塩水をつくり、それを釜に入れて加熱、結晶させた。もっとも現在は工業用に多量の塩を消費することと、値段が国産品より安いため、輸入した塩が多く用いられている。

塩は五味のうちの「塩辛い=鹹(かん)」であるが、同時に他のあらゆる味の基礎になる。酢は塩を加えてはじめて利くし、砂糖も塩によって引き立つ。また腐敗を防止するなど、さまざまな効能をもっている。魚を真水で洗うと蛋白質が溶けるが、塩水で洗えば溶けない。青いものを茹でるとき、塩を加えるといっそう青く茹で上がる。魚を煮る前に、5〜6分塩水に漬けておくと煮崩れしない。里芋を塩もみしてから煮るとぬめりが出ず、茹でこぼす必要がない。

このような働きがあるため、塩は昔から尊ばれ、神様へのお供物には必ず塩が含まれ、葬式の野辺送りから帰ると、家に入る前に塩で清める習わしがある。

味噌【みそ】

味噌

麦または米の麹に蒸した大豆、食塩、水を混ぜて発酵、熟成させてつくる。大豆(蛋白質)と、米または麦(炭水化物)と、塩(味および腐敗防止)をまぜ、コウジカビ(麹黴)と微生物によって発酵させた食品で、調味料として広く用いられ、年間100トン以上生産されている。奈良時代より前に、朝鮮から味噌の原形が伝えられたといわれ、最初は朝鮮語の「蜜祖(みそ)」または「高麗醤(こまびしお)」と呼ばれた。

味噌汁が常用されたのは15世紀の半ばからで、兵食として武将が研究・製造を奨励し、また塩が少ない山地などで製造に努めたので、さまざまに改良・発展し、地方によって独特の味噌が作られた。東北では「仙台みそ」のように、濃い赤褐色で味も濃く辛い味噌。東京近郊では短期に熟成した甘味が多く赤みがかった味噌。信州では「信州みそ」が有名で黄色をおびて味はやや辛い。これは武田氏の影響によるといわれ、米麹が入っている。関西では短期に作る「白みそ」が多い。色が白く甘味が強い。名古屋方面では大豆だけを用いた「豆みそ」がある。褐色で香りが高く味も濃い。

味噌を用いる料理はいろいろあるが、関東地方で毎朝作る「みそ汁」がもっともよく用いられる。みそ汁は一度沸騰したらすぐ飲むのがよく、煮すぎると風味を損なう。「みそ煮」は鯉・鯖などを濃厚な味噌汁で長時間、とろ火で煮込んだものである。「みそ和え」は野菜や海藻にも用いるが、特に魚肉の場合は、生臭みを消すので重んじられる。これに酢や辛子などを加えることもある。

「みそ煮」には獣肉や魚肉を漬ける場合、野菜を漬ける場合の2通りがある。白身魚には西京味噌(白みそ)を酒・味醂でのばして用いる。肉の場合は塩をしてから赤みそ、味醂、酒、砂糖等で漬け床をつくり、数日漬けて取りだし、焼いて食べる。大根、ニンジン、牛蒡、茄子、瓜などの野菜の場合は、薄い塩に漬けるか陰干しにしてから漬ける。辛味噌に漬けると時が経つほど旨味が増す。

参考資料「日本たべもの百科」新人物往来社刊

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