日本たべもの総覧
日本たべもの総覧(20)
辛子・芥子【からし】
アブラナ科に属する芥子菜(からしな)の実を乾かし、粉にした香辛料である。「からしな」は高さ1m以上に伸び、4月頃花を咲かせるが、若いうちに採って茹で、浸し物や和え物にすると辛味が効いて美味である。九州地方の高菜は「からしな」の一種である。
さて「からし」には洋がらし(西洋がらし)と和がらし(日本がらし)がある。洋がらしは黒がらしと白がらしがある。脱脂した後、製粉するので長時間の保存にたえる上、水で溶いてすぐ用いることができるのできわめて便利である。これに対し和がらしは、茶碗などに溶いて和紙で覆い、中央をへこまして水を垂らしたところへ、炭火などを入れて灰汁抜きをする。おでん、とんかつ、和え物、からし漬など用途は広いが、殺菌力では香辛料のうち、最も強いといわれ、夏季、刺身を食べるとき「わさび」のほかに少量の「からし」を混ぜるとよいといわれている。なお湿布薬に用いる場合もある。
唐辛子【とうがらし】
ナス科の植物で、原産地は熱帯アメリカ(アマゾン河流域)といわれる。熱帯地方では多年草であるが、日本などの温帯地方では一年草で、丈は60cm位である。日本には16世紀頃に入ったが、俗に加藤清正が文禄の役(朝鮮征伐)の際に持ち帰ったとか、ポルトガル人が伝えたとかいわれている。
果実は熟すると緑色から濃紅色に変化する。品種は辛味種と甘味種に大別され、辛味種には鷹の爪、伏見辛、八房、タバスコ、カイエンなどがあり、甘味種にはピーマン、シシトウガラシなどがある。香辛料の実を採るためのものが辛味種で、野菜用の実を採るためのものが甘味種である。香辛料としての唐辛子は最も刺激が強く、薬用としても用いられる。このため邪気を払い虫の害を除くとされて、関西では天井に吊り下げて保存することを「天井守り」と呼んでいる。
鷹の爪などの赤い熟した実は、そのまま煮物や漬物に入れて風味を加えるほか、「唐辛子みそ」にして「田楽」などに塗っても食べる。青い未熟な実は煮付けたり揚げたり、さらに糠味噌に漬けたりして食べる。葉は茹でて味醂醤油または酒醤油で煮て「佃煮」のようにしたのを「葉とうがらし」と呼んでいる。
薬用としては、昔から腹巻などに入れて冷え性を治したり、長旅の際に「土踏まず」に当てて疲労を予防したりして使われてきた。このほか健胃剤として内用し、チンキや軟膏として外用し、リウマチなどの治療に用いられる。
七味唐辛子【しちみとうがらし】
「七色とうがらし」ともいう。寛永年間(1630年)の頃、からしや中島徳右衛門が、江戸両国の薬研堀で売り出したのが始まり。今では全国に広まり、日本の代表的なミックススパイス(混合香辛料)になっている。混ぜる材料は、唐辛子を乾燥させて粉末にしたものを主体に、胡麻、山椒の粉、ケシの実、菜種、麻の実、陳皮(チンピ=みかんの皮を干したもの)の7種とされてきたが、最近では紫蘇の実、海苔、青海苔なども加えている。うどんやそば、味噌汁などに振り掛けるほか、鍋物や漬物に用いると味が引き立つ。
七味唐辛子の主体になっている鷹の爪などの赤とうがらしの辛味種を乾燥させて粉末状にしたものを「一味唐辛子」といい、各種料理の薬味として幅広く用いられている。
参考資料「日本たべもの百科」新人物往来社刊