日本たべもの総覧
日本たべもの総覧(19)
生姜【しょうが】
インド及び東南アジアが原産地である。きわめて古い時代から中国およびインドで香辛料や薬用として用いられており、漢方医やサンスクリットの書物にも記されていた。ヨーロッパでは、初めて知った東洋の香辛料が「生姜」であったといわれている。しかし、ローマ人達はアラビアの産物だと思ってた。
ヨーロッパでは「生姜」のことを「ジンジャー」と呼ぶことはよく知られているが、日本でもかなり古くから移し植えられていたらしく、すでに『古事記』に見えている。
しめった気温の高いところで良く育ち、関東・東海・大阪方面で栽培される。東京の谷中でも栽培されていて「谷中」という品種もあった。
ヨーロッパへもたらされたのは「干し生姜」であったが、日本では生で用いる。もっともポピュラーなのは「紅生姜」で、梅酢に漬けた紅い生姜である。焼きそば、焼きうどん、牛丼などに欠かせない。薄切りにして湯をして甘酢につけたものは「ガリ」(がりがりと音がすることから)と称し、寿司、ちらしずしなどのつまになくてはならないものである。葉付き新生姜は「はじかみ」と呼ばれ、整形して湯に適して軽く塩を振り、冷ました後、甘酢に漬けて酢取り生姜として焼物のあしらいに用いる。味噌をつけて食べる場合もある。
根生姜は近江生姜などのように鼈甲煮にするものもあるが、薄く刻んで生臭みをとるために煮魚に用いられる。卸し生姜はそうめんや冷や奴、湯豆腐の薬味に、いかそうめんや鰹のさしみに用いられる。おろした生姜を絞った露生姜は吸口や香り付け、獣肉の匂い消しなどになり、隠し生姜、忍び生姜とも言われる。
漬物としては、砂糖漬け、粕漬け、味噌漬けなどがある。ほかに、生姜湯、生姜酒にする。解毒作用が認められ、胃弱や風邪引きに効き、タンを取る働きもある。これらの効果も早くから知られていたと見えて、慶安の変の際、由比正雪の一味が玉川上水に毒を流したが、下流で老婆が生姜を洗っていたため、毒が消されたのだという伝説がある。
山葵【わさび】
日本原産のアブラナ科の植物で、日がささない冷涼な山間の清流に生える。しかし、現在は日中は日覆いをするなどの工夫によって畑でも栽培されている。これを「畑わさび」または「おかわさび」といい、栽培地としては大和の月ヶ瀬が知られている。清流に作るのを「沢わさび」または「水わさび」といい、伊豆と長野が有名である。
いわゆる「わさび」は、この水生植物の塊根(かいこん)をおろしたものであるが、最近は「粉わさび」や「練りわさび」が便利なため広く代用されている。かなり昔から食用として知られていたらしく、「菜譜には「辛きもののうち味もっとも良し」とあり、「和漢三才図会」には「そばの薬味にわさびは欠くべからず」とある。寿司に用いるようになったのは、文化文政頃で、ピリッと鼻をさしてすぐ消える辛味が魚肉の生臭さを消すので、江戸っ子の好みにかない、たちまち広まったらしい。
また、根と茎を刻んで粕に演けた「わさび漬」も、日本酒と良く合うが、これは幕末の頃から作られていたのを、明治22年、東海道線ができたとき静岡駅で売り出して人気を得、次第に広まったものである。わさびは刺身用がもっとも多いが「わさびかん」や「わさびせんべい」などの菓子にも使われ、独得の風味が喜ばれている。なお、葉も茄でて晒し、灰汁抜きして浸し物にすると美味である。
参考資料「日本たべもの百科」新人物往来社刊