調理師日誌

2023年7月号編集後記

鰻屋の職人は俗に「裂き三年、串打ち三年、焼き一生」(串打ち八年ともいう)といわれますが、日本料理や西洋料理、中国料理の調理師と異なり、専門職の寿司、天麩羅同様うなぎの場合も昔ながらに「職人」と呼ばれる「熟練した技術によって物を作ることを職業とする人」に分類され、とりわけ、職業ガイドによると「うなぎ料理店に勤務してうなぎをさばき、調理する調理従業者」となるようです。

一般に「職人かたぎ」という場合は「職人社会に特有の気質。自分の技術に自信を持ち、頑固だが実直であるというような性質」と解釈されています。

話はもどり、今年の7月30日は土用の丑の日になりますが、ゲリラ豪雨で被害を受ける地方もあれば、梅雨明け前なのに猛暑日が続いて熱中症になる人が絶えない日本列島です。江戸時代に、エレキテル(摩擦起電機)などを発明した平賀源内先生が、客入りが少なくて困っている鰻屋のために「本日土用丑の日」という看板を書いたら繁盛したといわれており、また、狂歌師で戯作者の蜀山人(大田南畝)が、土用に鰻を食べると食あたりしないという狂歌を書いたのが土用に鰻を食べる習慣になったともいわれます。

これが西洋人の話になると旧約聖書にモーゼの教えとして「ウナギはうろこのない魚なので食べるべからず」とあるため、今でも日本人のように好んで食べることはないようです。

調理法にもよりますが秘伝のタレで焼く「蒲焼」に優る料理はないと思います。それも関西風の地焼よりは蒸して焼いた関東風(昔は江戸前)の蒲焼(うな重)は垂涎の逸品。店の外で匂いをおかずにして飯を食べる小噺があるほどです。

夏を乗り切る格好のスタミナ食もさることながら、涼を求める夏の会席料理こそは私達が発揮できる職人技ではないでしょうか。

編集長 日比野隆宏

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2023年6月号編集後記

梅雨時ともなれば高温多湿の気候が続き、食中毒のシーズンとも言われています。集団食中毒のニュースも後を絶ちませんが、調理場においては食材も傷みやすくなるので食中毒の原因にもなります。

食中毒とは食品に起因する腹痛や下痢、嘔吐、発熱などの総称。原因によって症状は様々
で、主な原因はサルモネラ菌、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌等で、飲食により摂取した細菌が腸管内で増殖し、発症する場合と、食べ物の中で細菌が増殖してしまい、その食べ物を食することで発症する場合があります。一般に数日から2週間程度で回復します。

食中毒菌の種類は、細菌性、ウイルス性、自然毒(植物性・動物性)、化学物質性、寄生虫などで、中でも大多数を占めるのが細菌(バクテリア)とウイルスといわれています。特になまもの以外のもので、調理後に食品内で食中毒を起こすのも、細菌が原因で黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌(下痢・嘔吐型)等が知られています。冬場に多いノロウイルスはヒトの腸管のみで増加し、感染を拡大するとされています。

食中毒を予防するには一般に、手をきれいに洗うのが大原則で、調理を始める前、生の肉や魚、卵などを取り扱う前後、調理の途中で手洗いに行ったり、鼻をかんだりした後、動物に触れた後、食卓につく前、残った食品を扱う前等が注意事項に上げられています。徹底した衛生管理が求められる調理場では、生の肉や魚を切った庖丁や俎板、調理器具等の殺菌・消毒が予防のための必須条件です。調理を与る者として十分気をつけましょう。

梅雨入り前の異常気象や台風の影響で、梅雨前線が刺激されてすでに線状降水帯が発生し今年も各地で豪雨による被害が出ています。被災された皆様にお見舞い申し上げます。

編集長 日比野隆宏

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2023年5月号編集後記

百花繚乱の風光る光景が風薫る青葉若葉の景色に変わる5月は、和製語のゴールデンウィーク(文字通りの黄金週間)で始まります。移動性高気圧のせいで陽気はすでに初夏となり、一年で最も爽やかで過ごしやすい季節です。

旧暦では梅雨時にあたり、5月の長雨を五月雨(さみだれ)といい、梅雨(つゆ)の晴れ間を五月晴れと称していたそうで、今では五月(さつき)の空の晴れわたる好天をさすようになっています。新緑が映える野山でのアウトドアーライフも盛んになりますが、五月晴れは秋晴れほどは続かず、4月下旬から5月半ば頃までの間となるようです。

八十八夜は立春から数えて八十八夜目のことで、農家では八十八夜の別れ霜を目安に、昔から霜の心配がなくなるので夏野菜などの農作業を始める習慣がありました。暦の上では5月の2、3日(今年は2日)頃がその日にあたり、今ではもっぱら新茶の季節の代名詞になっています。

宇治・静岡・狭山等の茶どころでは昔ながらの「赤ねダスキ(襷)に菅の笠」の茶摘み歌の風情は見られなくなり、摘み取り機の音と風景に変わりました。一芯双葉の新芽を摘み、一番茶の高級茶が玉露で、摘む前に若芽におおいをかける方法が用いられます。新茶は一般に5、60度のお湯で3分おいて飲み、二番茶以降の煎茶は7、80度のお湯で1、2分おいて飲むのがベターとされています。最近は深蒸し茶が喜ばれているようです。

もともと日本で茶の栽培が始まったのは栄西禅師が建久2年(1192)中国から茶種をもたらし、明恵上人が京都栂尾に茶樹を植えたのが宇治茶の起源と言われており、当時は不老長寿の貴重な薬として貴族や高僧が飲用していたと記されています。

連休明けの5月8日から、新型コロナも季節性インフルエンザと同等の五類扱いとなります。緑茶のカテキンは細菌やウイルスへの効能が認められていますので、茶腹も一時と言わず毎日大いに飲用しましょう。

編集長 日比野隆宏

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2023年4月号編集後記

侍ジャパンがWBC(ワールド・ベースボールークラシック)2023で14年ぶり3度目の優勝を果たしました。準決勝ではメキシコと対戦、大不振村神様の奇跡の逆転サヨナラ打で驚異的な決勝進出を果たし、米国との決勝戦ではリアルニ刀流のスーパースター大谷翔平投手(エンゼルス)が1点差の9回、同僚の米国主将マイクートラウト外野手を空振り三振に打ち取って日本を世界一に導きました。筋書きのないドラマを演じた栗山監督率いる侍ジャパンの夢のような全勝優勝は永遠に語り継がれることでしょう。

初戦から切り込み大将を演じたヌートバー外野手のファインプレーが印象的でした。なんと言っても投打の活躍でMVPとなった。“大谷フィーバー”が、コロナ禍の日本経済に650億円の経済効果をもたらすという試算には拍手喝采です。その後に発表された大谷選手の今期の年収が、メジャー史上最高額の85億円になるといわれ、日本の某球団の全額に匹敵すると言いますから、驚き桃の木山椒の木です。

凱旋後、侍ジャパン選手の多くは3年後の連覇の夢を胸に秘めペナントレースに突入します。同時に大谷選手や吉田選手の活躍ぶりにも目が離せません。

満開の桜が散り始める4月から、鳥インフルエンザによる極度の鶏卵不足もさることながら、またまた原料や諸経費の高騰から値上げ商品が5,000品目にものぼると言われています。語呂合わせで、まさしくネ(音)をあげる年になりそうです。

マスク等の解禁によってインバウンド効果も蘇り、花見時とも重なって内外の観光客が一挙に訪れ、どこの宿泊施設も対応に追われているようです。飲食店も同様で、客足が戻りつつあるのにいずれもスタッフ不足に悩んでおり、こちらは嬉しい悲鳴と言うわけですが、もうすぐ大型連休がやってきます。名実ともに黄金週間になることを期待してやみません。

編集長 日比野隆宏

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2023年3月号編集後記

梅見月の2月から花見月の3月になり、今年の桜の開花予想は例年より早まると報じられています。新型コロナウイルス感染症も収束の段階にあり、政府ではマスク着用も学校の卒業式の時期に合わせるかのように「3月13日」から緩和され、着用は「個人の判断」となります。

電車・バスなどの混雑する通勤時間帯や医療機関を利用する場合、重症化リスクの高い高齢者施設等を訪問する場合などを除き、3月13日以降は容認されることになります。もっとも花粉症(今年は花粉の量が異常に多い)の方には時節柄マスクが手放せないようです。

三年間も着用していると引き続き抵抗なく着用できる自分がいるのも事実です。なお、飲食店などの接客業では対応に戸惑うケースも想定されますので、業種別の対応マニュアルを改訂する案もあり、いずれにしても当分は様子見となり、落ち着くのはコロナ感染症の医療扱いが二類から五類になる5月の連休明けとなりそうです。

春分は二十四節気の一つで、春分の日は太陽の中心が春分上に来たときのことをいい、陽暦では3月20日頃(今年は21日)春の彼岸(前後3日ずつの1週間)の中日に当たり、昼夜の長さがほぼ同じになります。

春分の日は国民の祝日で、自然をたたえ生物をいつくしむ日とされています。明治の頃に始まったお彼岸のおはぎは、春は牡丹にちなんでぼた餅、秋は萩にちなんだ名称になつています。地方によっては重詰めにしたおはぎをお世話になっでいる人に配り歩く風習も残っているようです。

桜花爛漫の春も間近に迫り、今春は3年ぶりに心置きなくお花見ができるようです。「花より団子」になりがちですが、しばし風流を楽しみながら花見の宴の献立で日本料理を楽しんでいただきましょう。

編集長 日比野隆宏

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