調理師日誌

2018年6月号編集後記

 水無月(みなづき)は陰暦六月の古称ですが、一般に水の月の意といわれています。瑞穂の国にとっては田植えの後の最も水を必要とする時期で、梅雨前線が停滞し最も多く雨を降らせます。農事暦としては田植えも済み、田毎に水をたたえる月になります。一説には文字通り、梅雨が明けて水も涸れ尽きる月であるともいう。

 水無月という和菓子が京都の銘菓にあります。白黒の外郎(ういろう)の上に蜜漬けの小豆(大納言)を散らし、厚さ2cm弱に蒸し上げて三角に切ったものです。京都では6月になると一斉に売り出されます。6月30日の夏越しの祓えを中心に食べる季節の菓子ですが、日本料理でもその形に因んだ水無月豆腐などの料理名があります。

 この時季の蕨の根茎から取った澱粉(わらび粉)で作る本蕨餅や本くずで作る葛餅も黄粉(きなこ)をまぶして食べます。季節を問わず食べられている黄粉餅に類する銘菓はつきたての餅に黄粉をまぶす安倍川餅。また和菓子に不可欠の小豆あんをまんべんなく塗りつけたあんころ餅。代表的なものはお伊勢参りにつきものの赤福餅でしょう。

 伊勢参りの長旅でお腹を空かした参拝客に少しでも早く出せるように、餡を餅でくるむより素早くできるように考案されたといいます。本来は軽食として腹持ちの良い塩餡で作られたもので、今でも箸を添えて出されるのはその名残りといわれています。

 鮎漁の解禁とともに鮎料理が献立を彩る季節となります。一方ではまた、梅雨時は夏に向かって食中毒の原因となるサルモネラ菌などが発生しやすくなります。食材は勿論のこと庖丁や俎板、器具類も加熱処理が重要になります。念には念を入れて用心しましょう。

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